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随時所感

2013.08.18

情報社会における官邸の自己統治能力

昨日、世耕内閣官房副長官の講演を聞く機会があった。

官房副長官とは内閣の危機管理に心血を注ぐものだ。

特に情報社会の現代においては一つの情報が内閣の支持率を左右し、政権基盤を揺るがしかねない。先を読み、先手を打つセンスと迅速な問題解決能力が欠かせない。

官房副長官には10名を越す記者クラブ所属の番記者が付き、彼らにも盆休みがあるという。と言って盆休みに副長官がどこでどんな発言をするかわからない。それを他社にすっぱ抜かれて困るなら本来、記者は自らの盆休みを諦めるだろう。

しかし現状は違っていて、彼らは副長官に盆休み中の発言についてはマスコミをシャットアウトするよう頼むのだそうだ。

そもそも番記者が所属している記者クラブとは、主に官庁ごとに日本新聞協会の加盟社と、これに準ずる報道機関から派遣された記者によって構成される任意団体で、明治の帝国議会の頃に始まり、時代に合わせて名称や運営ルールを変えながら現在も続いている日本独自の仕組みである。

日本新聞協会は、記者クラブの目的を「国民の『知る権利』と密接にかかわる」ものとしているが、一方で加盟社以外の記者を排除し、官庁側も記者クラブ加盟社・所属記者以外の取材に消極的姿勢をとってきた。

そういった慣例に倣い、総理の各社単独インタビュー等も単独とは言うものの、記者クラブ内部の取り決めで、取材順が決まっていたが、これについて総理が「自分が受けたい社から受けたい」と慣例にとらわれない意思表示をした途端、幹事会社が副長官のもとへ抗議に来たそうである。

記者クラブは、言わば“情報カルテル”として官邸等の情報を独占的に享受できる既得権を持っており、任意団体であるにも関わらず極めて公的な存在としての地位を確保してきた。

だからこそ、それらを認めてくれている取材対象(官邸等)との癒着的関係がしばしば批判の対象となっている。記者クラブという仕組みそのものが、「国民の『知る権利』と密接にかかわる」という目的の障害になっているのでは?という指摘である。

官房副長官は「閣僚の失言火消しは30分以内であれば消火可能」だと言う。

失言から数時間経てば食事時のTVニュースで流れ、1日経てば翌朝の新聞に活字で残る。

記者がニュースの素材として編集し本社へ送る前に副長官が“待った”をかけられる時間、それが30分の意味と推察する。

そこで盆休みの恩着せ話を切り出すか否かは別として、そうした取材対象である副長官と記者クラブとの関係が、失言報道のような本質的議論でなく不毛な、但し、政権にとっては厄介な問題を未然に防ぐのであろう。

この類の関係であればむしろ利益とも言えるが、本質的な問題や重大事実の隠蔽にその“関係”が用いられてしまっては“揚げ足報道を防いだ利益”など比べ物にならない重大な不利益となる。

そのさじ加減は偏に官邸側の自己統治能力の問題と言えよう。

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